がんについて知っておきたいもう一つの選択
三木直子 訳
(原題:The Truth About Cancer)
<訳者あとがき>
最初に断っておきますが、本書の著者は医師でも研究者でもありません。「代替医療」と聞くだけで、胡散臭い、あるいはインチキだと頭から決めつける人も少なくない風潮のなか、物議をかもしそうな、しかも医師でもない人が書いたこの本を翻訳することに、ためらいがないわけではありませんでした。でも、医療従事者でない人だからこそ本書が書けたのだということは、本書をお読みいただければおわかりだと思います。
がんの脅威は年を追うごとに切実さを増し、不安を抱いている人は多いと思いますし、私もまた例外ではありません。がんと闘うためのもう一つの武器を与えてくれるかもしれないこの本が、仮に私に理解できない言語で書かれていたとしたら、きっと誰かに訳してほしいと願うに違いない。そう考えて、翻訳を手がけることにしました。
日本と違ってアメリカには国民皆保険がなく、がんの標準治療を受けたくても高額すぎて受けられない人が多いという実情があります。そのことと関連するように、アメリカでの本書に対する注目度は高く、アマゾンでも圧倒的な評価を得ています。また、これまで二回ほど著者が開催しているカンファレンスをネットで視聴しましたが、さまざまな補完代替療法に関する講演が3日間にわたって行われる会場は大変な熱気に包まれ、関心度の高さを実感しました。
翻訳の作業は 2017年の前半に行っています。それは、アメリカでトランプ大統領が就任した直後のことであり、「フェイクニュース」という言葉がさかんに使われるようになった時期と一致しています。大手メディアが大統領の言葉を嘘と呼び、大統領がそんなメディアの報道をフェイクと呼ぶ。これは前代未聞のことです。一方、日本でも、同年2月に森友学園問題が報道されたのを皮切りに、加計学園問題、自衛隊日報問題などが次々と報じられましたが、その真相は今だ明らかにされていません。
そのような状況の中で訳した本書の原題が『The Truth About Cancer』、直訳すれば「がんの真実」であるというのは、実に考えさせられます。ここ数年、周囲で起きていることに耳目を開いて生活している人ならば、「政府、あるいは権威ある(はずの)団体や個人が言っていることだから、それは真実に違いない」と即座に納得することは難しくなっているのではないでしょうか。私たちは、誰が何を、なぜ、何の目的で言っているのか、その文脈まで含めて読み解けるメディア・リテラシーを求められるようになってしまいました。
これは何についても当てはまりますが、誰だって自分や大切な家族の健康のこととなればなおさら真剣に、本当のことを知りたいと思うはずです。本書は、今まで当然だと思って受け入れていたことについて、もしかしたら、そこにあるものだけが真実ではないのかもしれない、と立ち止まって考える材料を与えてくれるでしょう。
著者と同様に私は医師でも研究者でもなく、本書を訳すまで、ここで紹介されているがんの代替療法の多くを知りませんでした。ただ、私はたまたま医療大麻について深い関心があり、自分なりに勉強し、欧米で医療大麻研究の最先端にいる医師、研究者の方々とも交流があります。ですから本書で代替療法の一つとして紹介されている、カンナビスによるがん治療の可能性が、現在進行形のできごとであり、ここにはその概要が正しく記されていると確信できました。だとしたら、紹介されている他の療法だって同様に信頼できるものかもしれない。そう思ったことも、本書を訳した理由の一つです。
巷にあふれるさまざまな代替療法の中には、どう考えてもおかしく思えるものが存在します。しかし、たとえば日本の医療の現場では一顧だにされない医療大麻は、欧米では科学的にその医療効果が立証されつつあります。つまり、玉石混淆なのです。
標準治療のすべてを否定することが正しいわけではありませんし、最近話題の光免疫療法も含め、がんの治療法は日進月歩です。そして本書の中に、ときに扇情的にすぎる表現があることも否めません。
ですが、人の体は一人ひとり違い、一言でがんと言っても千差万別です。こうすれば誰でも必ず治る、という治療法が確立されていない以上、今、がんの治療にはどんな選択肢があるのか、自分の生き方、病気との向き合い方に一番ふさわしいのはどの選択肢なのか、あらゆる情報を与えられる権利が患者にはあると思います。本書はアメリカの状況を前提に書かれたものではありますが、統合医療では日本の一歩先を行く海外の情報から得るところは大きいはずです。
ぜひそうした情報に触れることで、読者の皆さまが、ご自身に最も適した選択ができることを願っています。
最後になりますが、翻訳の監修をお引き受け下さった帯津三敬病院総合診療科の原田美佳子先生には、専門用語の精査を含め、数々の貴重なご指摘とアドバイスをいただきました。この場を借りて、心からお礼申し上げます。
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晶文社より 2018年 2月 23日発売。