アクティブ・ホープ
三木直子 訳
(原題:Active Hope: How to Face the Mess We’re in without Going Crazy )
<日本語版への序文>
この本が日本語になると聞いて大変嬉しく思います。日本という美しい国を訪れたときのことはとても楽しい思い出ですし、そのときに、そしてその後にもたくさんの方と友人になれたことに感謝しています。もう一度日本に行く機会はおそらくありませんが、少なくともこの本が私の一部として、皆さんとともにいてくれることでしょう。
日本の皆さんは、その歴史において、この上なく重要な時期に差し掛かっているように私には思えます。日本は、気候変動、経済動向の不確実性、地理的・政治的な不安定さといった難局が一度に起きている状況を受け入れなければならない世界の国々の一つにすぎませんが、その一方で、先進国の中でも非常に特別な位置にいます。アジアという大陸棚の一番端に位置していると同時に南北アメリカ大陸には最も近いところにあり、最先端技術の開発と活用の先頭に立ちながら同時に、豊かな宗教的・精神的伝統との生きたつながりを守り、長い歴史のある独特の習慣を大切にしているのです。
ですが、日本の立ち位置が持つ決定的な重要性がますますはっきりしたのは、311という数字とともに記憶される壊滅的な三重の災害があってからです。原子力技術の持つ危険性――日本という地震の多い小国のみにとどまらず、地球全体に対するその危険性――は、今、かつてなかったほど、誰の目にも明らかです。それだけでなく、より広い意味で、日本に代表される産業成長型社会が持つ持続不可能で破壊的な側面にも、多くの人々が気づき始めています。ですが前途には数々の障害が立ちふさがり、どんな結末が待ち受けているかは定かではありません。それでも日本の方々は、とりわけ底力と知恵のある国民であることを示してくださいましたし、この世界という舞台における日本ならではの立場を最大限に活用してくださるに違いないと私は信じています。
この本にある考え方やエクササイズが、今よりも生命持続型の社会への「大転換」を起こすためにすでに努力してくださっている日本の多くの皆さんのお役に立つことを願います。私はそうした方々と、そしてこれを読んでくださっているあなたと、より良い世界を目指すアクティブ・ホープを掲げて連帯したいと思います。
二〇一五年、バークレーにて ジョアンナ・メイシー
<著者について>
○ ジョアンナ・メイシー
米国の仏教哲学者で社会活動家。仏教、一般システム理論、ディープ・エコロジーを深く学んだ彼女は、50年以上に及ぶ平和、社会的公正、環境分野における活動家としての経験とそれらの学識を統合して、「つながりを取り戻すワーク」という、個人的および社会的な変容をもたらす理論的枠組みとそれを現実で実践するための効果的なワークショップ手法を生み出した。このワークは世界中の教育者やNGO、市民活動家たちによって採用され、社会的・環境的に困難な状況に置かれている人たちが、絶望や無気力を乗り越え、互いに手を取り合って能動的に行動を起こしていく力となっている。米国カリフォルニア州のバークレーに在住。著書に『世界は恋人、世界はわたし』(筑摩書房、1993年)など多数。
○ クリス・ジョンストン
医者、著作家、コーチ。NHSにて20年以上、中毒症の専門家として働いた経験があり、現在でも医療関係者を対象に行動医療や精神衛生などを教えている。彼は20年以上、ジョアンナとともに「つながりを取り戻すワーク」を教えるとともに、2004年以来『ザ・グレート・ターニング・タイムス』というニュースレターを発行し、世界中に多くの読者を持っている。また、以前住んでいた英国中部の都市ブリストルにて「幸せの講義」シリーズを開講し、困難な時代においてどう精神的な健康を保ち、しなやかに生きていくかを伝えている。現在はスコットランド北部に在住。著書に『Find Your Power(自分のパワーを見つけよう)』がある。
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春秋社より 2015年 10月 15日発売。